会社設立のとき、お客様から、社員の給与はいくらにしたらよいかという質問がときどきあります。とても難しい質問だと思います。答えがないからです。いろいろな条件を考え決定していくことになると思います。
ただ、私が一番大切と思うのは、その会社で継続して働いてもよいという金額を提示できるかどうかだと思います。現在のような人手不足の状況では、例えば、建設業などではやめてもいくらでも働くところがあるようです。それに、人が定着しないと会社は中長期的には安定しないので、社員を採用していくのでしたら、やはり、その社員の生活ができる金額を中心に設定していくことになると思います。
でも、会社の経営状況とかではなく、生活中心でということにだけするというわけではありません。それでは、会社の現状を無視してしまうことになるからです。
人件費は、固定費といわれます。雇用ですので、8時間いれば仕事が進まなくても給与が発生するからです。対して、外注費は変動費です。100万円の仕事を外注に80万円で出すという感じです。売上の8割とか7割とかで変動していくことになります。
変動費であれば、利益は多いか少ないかはありますが確保できます。しかし、固定費の場合、売上がなくても費用が発生してしまいますので固定費を超える売上が絶対必要になります。この固定費を超える売上はいくらかと考え、安定した売り上げを確保できるかで、給与水準は変わってきます。
本来、単純に考えてしまえば、人件費も変動費化してしまえばよいということになります。単純に売上の40%という具合です。ところが、この方法では休みの多い月とかに対応できません。わかりやすいのですが、従業員の福利厚生として考えられる有給休暇とか特別休暇とかに対応できません。やはり、基本的な生活部分は保証するべきと思います。
つまり、生活の保障としての固定費と、成果としての出来高部分です。この2つの部分を売上と社員の生活レベルからどう判断していくかということが必要と思います。また、他の会社との比較もそうです。給与の額だけでその会社にいるかどうかではなく、仕事の内容や自己実現ということもよく言われることです。その辺になると、とても難しいことになると思います。
現在の生活を保障し、他の会社と比較しても安くない、そして、その仕事や会社には自分の自己実現があり将来の希望があるとなると、簡単なわけにはいかなさそうです。こうなれば会社は儲からなければ無理という感じかと思います。
でも、今できないことにをしてしまえば続きませんので、経営状況と関係で給与を決めていくことになると思います。具体的な数字から給与を見てみたいと思います。男性で年収を400万円と設定します。会社負担の社会保険料を15%とすると60万円は会社負担が出ます。それと通勤手当です。月1万円とすれば年間12万円です。労災保険と雇用保険をいれるとざっくりですが年収の設定が400万円なら1人当たり480万円くらいになると見込んでおくことになります。
もちろん、退職金をどうするかとか有給休暇はどうなのかとか、残業はなどと考えていけば話はさらに難しくなります。でも、売上からしか支払えないということがまず前提になり、売上から人件費以外の経費がいくらかかるか、税金はいくらか、会社にリスク回避のためまたは将来の投資のためめ残しておくべき利益はいくら必要かなども考慮していかなければなりません。
でも、上記の年収400万円の場合、少なくとも480万円の人件費が出ることを考慮し、給与を決めることになります。単純に考えれば1人の売上1千万円の場合その人の年間給与を40%の400万円に設定するなら付随する社会保険などで売上に対する割合は48%、ざっくり50%を見ないといけないということになります。
これは、売上に対する割合です。実際は、利益に対する割合でしか給与は出てきません。売上から仕入れや外注費などを控除し、その利益に対するものからしか出てこないのでもう少し突き詰めて考えると、売上高から人件費以外の年間経費を差し引いてその予想される利益から給与を決めていくことになります。
この、売上△給与以外の経費、で予想される利益を、全部人件費に回せるわけではありません。その利益からさらに会社の将来の投資にかかる現金を残すのですから、それも差し引くことになります。そして、この計算は現金で支払われる支払いベースでの計算になります。といっても借入金を考慮したりはしません。借入金で給与を支払うなら話がややこしくなりますし、返すのですから一時的な資金繰り以外給与の支払手段として考えてはだめだと思います。
この「年間売上予測」「給与以外の経費」「将来の投資」「リスク回避の積立」の各項目をできるだけ正確に把握することが必要です。でも、先のことなどわからないので実際には最悪のパターンを想定し、また、うまくいったときを想定しその中間くらいで予想することになります。最悪の場合だけを想定するのは経営の実態を反映しませんし、うまくいったときだけのことを考えていると予定外のことが起きた時の対処で行き詰ります。
給与決定は、経営者の一番頭の痛いところだと思います。でも、正面から客観的に見る必要があります。今はこれしかできない、あなたの仕事量または成果ではこれが限界ですと。そして、今後このようなことをしてくれたら、こう評価する、その場合の評価基準はこうですと明確に示すことです。
本人の評価と会社の評価に差がないようにすることが一番良いのですが、とても難しいことだと思います。評価基準の明確化、評価された側の納得、評価する側の能力とその基準の明確性などが必要になってくると思います。
まず、会社経営の中で最悪のパターンとうまくいったときのパターンをどう想定するかということになります。そのあとでないと各人ごとの評価へと進むのは難しいと思います。最悪のパターンといっても極端な話ではありません。利益率が30%を平均と予想するときいろいろな原因で25%に下がってしまう可能性があるというな予測の仕方でいいと思います。
また、年間の売上高の予想を低くとると、3千万円でうまくいくと4千万円とかでよいと思います。その年間予想売上の幅に利益率の幅をかければ年間の粗利が出てくると思います。そこから、年間の税金と固定費を差し引きできるだけ正確に年間の人件費に充てる利益を計算します。その利益には幅があるのですが、その幅の中から給与を決めていきます。当然その中に役員報酬があります。
役員報酬は、社員の給与を先に取って、その残りから算出します。そうでないと社員の給与は不安定になり継続雇用ができなくなるでしょう。役員は経営側なので、もし、社員の給与を下げなければならない事態が起きた時は経営側の責任をまず果たしてからということになると思います。
この計算で給与を決めていくとしても、その人ごとの能力やその都度おこなった仕事に対する評価はどうなるのかということが問題になると思います。
日本の大きい会社は、年功序列で給与が決まることが多いと思います。これは経験年数が増えるにつれて仕事のレベルが上がっていたり、慣れているの仕事が早くなっていたりするからと考えられます。管理職はいろいろな経験を積まないとなれません。なぜかというと、部下を持つことになりますので、その社員ごと経験や知識、特徴からいろいろな課題にどう対処するかということが必要になるからです。
この管理的職業につくには、職業に対する知識と経験が必要です。そして、面倒を見られるかという人間性も必要とされると思います。よってそれらをどの程度兼ね備えられているかで、会社は評価し給与が増えていくということが年功序列の仕組みだと思います。
でも、実際にはそんなこともなく、若い人でもその能力を備えている人は多くいます。そんなところから会社全体での給与の割り当てが決まっても各人ごとの給与の算定はまた別のことになります。また、当然ながら、1人パートさん採用するとします。そのパートさんがあまり知識がなく仕事をしなかったとします。そうすると毎年100万円の給与は無駄になります。5年雇い続ければ500万円の無駄な給与を支払うことになりかねません。
この辺は、採用とその後の研修や仕事のやりがいや適正の関係ですが、経営側にはとても怖い部分です。話を各人の算定に戻すと、これは経営側が何らかの評価基準を作成し、明確にしなければならないと思います。その評価基準を作成するところが怖いと思うかもしれません。公表しなければよいのですが、公表しなければ透明性は確保できません。
社長だけが知っているのでしたらいつでも変更できるので社長はよいのですが、透明にしないと評価基準に従って給与が上がるというならやる気も出るのですが、そうでないとやる気が下がることもあると思います。ところが評価基準に個人の売上高を基準に40%などとするとその人の売上とはということになりかねません。
運送業ならトラックに積んで運ぶ荷物が1日2万円として、往復の仕事や片道だけの仕事で2万円か4万円可が変わってきます。荷物の量によってもちがうし、手摘みとフォークリフトや距離によっても仕事の質は変わってきます。でも金額だけで判断するとなるとその仕事はしないからそちらがやりたいとかという話になりかねません。
それに個人を基準にするとグループで対応する仕事は評価が難しくなります。個人とグループと両方を判断基準にしてさらに会社全体の利益というように評価は個人とグループと所属するその上の組織で行われることになると思います。そうすると基準は難しくなりパターンも複雑になりますので作らなければよかったということになりかねません。
でも基本は会社の利益からしか給与水準は決まってこないということになります。だから他の会社との比較というのはあるのですが、他の会社との比較のために無理をしてはいけないということになります。
実際私が会計事務所でどのくらいの給与が出ているか聞いたとき給与の高いところは残業が多く、基本的に400〜450万円くらいなのですが、残業代が入り500〜600万円くらいになっている感じでした。そして一見550万円というと会計事務所としては給与は高いのですが、受験勉強もできないし仕事に見合わないということでやめてしまうのでした。
給与だけで社員がその仕事をつづけるのではないので、生活できる一定の水準の確保は必要ですが、給与の額面だけを上げるために残業を増やしても長続きはしないことになります。
給与を考えることは売り上げを考えることにあります。売り上げを考えることになると、その単価はどうかという売り上げ単価のことになります。そして売り上げの単価はどうかというと、自社のやっている業務はたに行かせないかとか、もっと単価の良い仕事にシフトするにどうすればよいかとか、そのためにはどこに営業すればよいのかとか経営そのものに行きつくことになります。
給与をいくらにするか難しい問題とおもいます。基本は会社が安定した成長を続けられる範囲で社員が、働いている方が納得できる金額にすることが必要です。そのためには話し合いの場を持つことも必要と思います。そしてどのようにこの先のことを考えているのかきちんと説明する必要もあると思います。社長の仕事だと思いますので、社員が納得するよう社長の仕事をきちんと丁寧に行うことになるのだろうと思います。